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taiken blogブログでは、僕が気になっている柔道家やその関係者をインタビュー形式で紹介で紹介します。

真心を込めて考える競技だけじゃない柔道の価値。#013 佐々木千鶴

こんにちは。ダイエット柔道家の平良です。二兎追うものは一兎も得ずだけど、二兎追わなきゃいけない時があるなって思います。

 

さて、全国各地でインターハイや全日本実業個人など、青春全開で高校生や社会人アスリートが輝いた8月が終わりを迎えようとしています。それぞれの夢に向かって、一生懸命戦う選手たちを見ていると、勝ち負けに関わらず「ああ、スポーツっていいな」と心が動かされてばかりいる今日この頃。

 

今回の柔道ブログは、試合などの「競技性」より、その少し先にある「柔道の価値」や「柔道を通して学んだこと」に重きを置いて、佐々木千鶴さん(筑波大学筑波大学大学院→全日本柔道連盟ニューカレドニア中学校日本語アシスタント)に話を聴きました。

 

「大切なのは、どう在るべきかよりどう在りたいか。いつも自分らしく生きたい」と話す彼女の熱をぜひ感じてください。

 

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***

 

佐々木 千鶴(chizuru sasaki)
1994年 10月10日 岩手県出身
花巻北高校→筑波大学筑波大学大学院→全日本柔道連盟ニューカレドニア中学校日本語アシスタント)

主な実績
2011 インターハイ岩手県予選優勝

2011 全国高等学校柔道選手権大会岩手県予選優勝

2022 全日本実業個人柔道選手権大会出場

 

━━ 佐々木さんは筑波大学に進学されていますが、推薦ではなく一般入試で受験して、合格されているんですね。

 

大学の志望動機を教えてください。

 

佐々木:私、高2の冬に前十字靭帯を断裂しちゃって、高校の柔道生活を消化不良で終えてしまったんです。だから大学では思う存分柔道がしたかったので、柔道が強くて、学問としても柔道を深められるところを基準に筑波を志望しました。

 

━━ 実際に入ってからはどうでしたか?

 

佐々木:実は絶対ここで日本一になるぞ!4年間頑張るぞ!と気合を入れて来たものの、筑波にどんな選手がいるか知らなかったんです。それで、まわりを見渡せば日本一、世界一の選手が普通にいて凄く怖かったです。

 

あと中学高校は岩手の田舎で柔道部員が少なくて、練習はトレーニング中心。乱取りもやって2分の5本とかだったので、初めての練習で増地先生が「じゃあ乱取り6分の10本」って言ったときは、まさか本当のことだとは思わなかったです(笑)。

 

━━ 環境と練習量の変化がえげつないです。乱取りの時間とか6倍になってますし(笑)。

 

生活環境が一気に変わる中で大変だったことも多いと思うんですけど、まわりにはレベルの高い選手たちがいて、改めて「私はここで頑張るんだ!」と強豪チームに入れた喜びみたいなものはありましたか?

 

佐々木:正直に言うと、すごく現実を見知らされた思いでした。私は岩手にいたから全国大会に出れたけど、ここに来たらジュニアも一回戦で負けるし、校内予選でも負ける。そもそもあまり試合に出れなくて、部員の中でも一番弱かったので「日本一になりたい」なんて、恥ずかしくてとてもじゃないけど言えなくて、、、。

 

でも柔道はずっと大好きで、、、。

 

━━ 僕の主観ですが、筑波は天才集団というイメージがあります。それに関東には山梨学院大淑徳大学桐蔭横浜大がいて、地区のレベルも高い。

 

ちょっといじわるになってしまうのですが、日本一を目指して大学にやってきて、理想と現実とのギャップ、自分への劣等感を感じる中でも、日本一という目標は胸の中に抱き続けていたのでしょうか?

 

佐々木:それはもう大学に入ってすぐに、正直無理だろうなって気持ちに変わっていました。

 

試合で全然勝てなくて、でも強くなりたいと思って練習はしてて。どうなんだろう?強くなりたいってことは諦めてなかったってことなのかな?

 

でも具体的に自分が日本一になるイメージは持てませんでした。

 

━━ 僕も学生時代に日本一を目指して柔道をしていましたが、これっぽっちも結果を出せませんでした。

 

結果にこだわる競技の世界は厳しいけれど、やりがいも絶対にあると思います。もちろんその一方で自信をなくすことだってありますが、、、。

 

佐々木:私、大学でも怪我が多くて、また前十字断裂しちゃったんです。リハビリも多かったので、その分トレーニングもしてて、スクワットのマックスは100キロを超えてました。

 

ラントレも女子の中では1、2番に速かったけど、それでも柔道で強くなれなくて、、、うん、やっぱり悔しかったです。

 

━━ 悔しいですね。自分の可能性に賭けてここまできたけど、いつまでも可能性という言葉にすがりついている訳にはいかないですし。

 

佐々木:そうですね。だから少しずつ自分なりに柔道を楽しもうというか、競技は上手くいかないんですけど、やっぱり柔道が好きなので。

 

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━━ 佐々木さんは柔道のどういうところに楽しみを見出していたんですか?

 

佐々木:私は中学生の頃から英語を話すのが好きなんですけど、筑波には毎日のように外国人選手が合宿に来ていて、大学時代は怪我が多くて打ち込みパートナーがいない時期も多かったので、よく打ち込み相手がいない海外の選手に声をかけて、一緒に練習していたんです。

 

その時に「ねえねえ、1、2、3ってあなたの国の言葉でなんて数えるの?」って聞いてみたり、合宿に一人で来る選手には不慣れな土地で寂しいだろうなと思って「一緒にランチ行かない?」って声をかけてみたり、そうやっていろんな国の柔道家と話をするのが楽しくて。

 

柔道部で外国人受け入れ担当もしていて、柔道を通して海外に友達ができるのは、これは面白いなと、国際的なことへの関心も高まりました。

 

━━ 海外の選手と友達になれるの凄く羨ましいです。あと実際の稽古やボディランゲージでのコミュニケーションも楽しいですけど、ちゃんと言語で話せるのがめちゃめちゃいいですよね。

 

佐々木:ブルー柔道衣を洗濯したら緑色になっちゃったと泣きべそをかいていた選手と一緒に脱色方法を調べたり、練習中に怪我をして凄く痛がっていた選手を病院に連れて行ったらただの打撲だったり(笑)。

 

━━ 痛みに敏感すぎる(笑)。

 

佐々木:当時筑波に来ていた外国人選手が今ではナショナルに上がっていたり、コーチになっていたり、学生時代にお互い助け合ったというか、いろんな時期を乗り越えた選手とまた会えるとすごく嬉しいですよね。ああ、柔道いいなって思います。柔道があったから出会えたんだなって。

 

仲良くなった選手たちとは今でも連絡を取り合っていて、たまに人生相談とかしてますよ。

 

━━ 柔道は競技だけじゃないですね。

 

佐々木:私も最初は強くなりたいって勝ち負けの柔道しか見えてなくて、大学に入ってからもメインは競技でしたけど、国際的なものとか、人と繋がるきっかけになるとか、知らなかったことを知るツールになると学びました。

 

━━ うんうん、僕は恥ずかしながら「柔道は競技だけじゃない」と気付いたのは最近で、今になってやっと嘉納治五郎先生の教えって面白いなと思いました。

 

佐々木:ただ、もしかするとなんですけど、今の日本の柔道って、競技面ばかりが重要視されてて、、。

 

━━ ああ、だと思います。

 

佐々木:話が前後しちゃうんですけど、海外で経済的にあまり状況が整っていないだとか、社会的に差別があるだとか、そういうところに行けば行くほど、現地の人たちは柔道の価値やスポーツの価値を信じているんです。

 

私は筑波大で、日本で、柔道に打ち込んでいたので、なんだかすごく過信というか、驕りみたいなものがありました。指導のために海外に行ったときも「柔道って知ってる?」みたいな気持ちでいて、まさに「教える」って感覚だったんですけど、そうじゃなくて、私は彼らに柔道を教えてもらいました。

 

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***

 

━━ 佐々木さんは筑波大学の大学院にも行かれているんですね。

 

院ではどのようなことを学んだのでしょうか?

 

佐々木:基本的に柔道部から院に進んだ人は柔道研究室に行くんでんすけど、私は興味のあったスポーツ開発学を学ぶことにしました。

 

タイミング的にちょうどリオオリンピックが開催された頃で、女子の−57kg級で優勝したブラジル代表のラファエラ・シルバ選手のインタビューを見たことが、興味を持った一番のきっかけです。彼女は「柔道が私の人生を変えた。貧しいところに生まれたけれど、柔道をしたから目標が出来た。柔道を通していろんなことを学んだ」と話していたんです。

 

個人的にもシルバ選手のことを調べてみたら、本当にファベーラというブラジルの貧困街出身だということが分かって、それで彼女の姿を見て、今ファベーラにいる子どもたちも「私もシルバみたいになりたい」と目を輝かせながら話していて、ああ柔道すごいな、こんな力があるんだなって感動して、、、。

 

━━ うんうん。

 

佐々木:それまでは競技としてしか見てこなかった柔道だけど、柔道を今度は手段として、人を繋げたり、困っている人を助けたり、そういう勉強がしたいなって。

 

あと日本もですけど、世界のいろんなところに目を向けると、貧困や男女格差など、いろんな社会課題があって、そんなところで今までやってきた自分の強みでもある柔道を生かして、誰かのために、何かできないかなと。私も競技だけじゃない柔道の価値を信じてみたいなと思いました。

 

ちょうどシルバ選手の例があったので、ブラジルにソーシャルプロジェクトという活動があることを知って、そのプロジェクトはスポーツを通じて貧困地域に安全な場所を作ったり、無料で子どもたちに食事の提供をしたりって内容なんですけど、そういったことを学べるのがスポーツ国際開発学だったという感じです。

 

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━━ 日本とブラジルではもちろん地域にもよりますが、柔道の価値という視点がかなり違うと思いました。それにファベーラは、別の言い方をすれば「スラム街」ですよね。治安や衛生状態がかなり悪くて、殺人、薬物の密売、観光客を狙った誘拐など、多くの問題を抱える地域だとテレビで見たことがあります。

 

もうすこし、ファベーラについて教えてください。

 

佐々木:まず南米の大きな都市には必ずと言っていいほど貧しい方たちが住んでいるエリア(ファベーラ)があるんですね。

 

大きな都市を作るには労働力が必要だから、奴隷というか黒人やアフリカの人たちを連れてきて働かせたんですけど、作り終わった時にその人たちを送り返すのもお金がかかるから、勝手にどこかへ行けみたいな感じになって、とは言っても彼らは住むところがないので、山なんかに不法に住んで、自分達で勝手に電気を引っ張ってくるなどしたのが始まりみたいです。

 

ボロボロな家に大勢の人が密集して暮らしていて、そこで生まれると、学校に行く機会があまりなかったり、行けても教育の質が悪くて何も学ばずに帰ってきたり、将来的にいい職業に就けなくて、そうなると貧困もループしてしまって、、、。

 

━━ 負の連鎖ですね、、、。

 

佐々木:富裕層が住んでいるところと貧困層が住んでいるところに物理的な壁はないんですけど、何故だか見えない壁があって、本当に人が行き来しないんです。

 

━━ ああ、危ないとかそういう理由ですよね、、、。同じ国ですぐ隣なのに、、、。

 

それにしても佐々木さん、勉強していたのはそうですが、すごく詳しいですね。

 

佐々木:私、大学院の時に半年間ブラジルの現地でソーシャルプロジェクトに参加させていただいていて。

 

━━ なるほど、納得しました。ちなみにどこから繋がったんですか?

 

佐々木:筑波にブラジルの方が柔道研修に来ていて、話す機会があったのでソーシャルプロジェクトのことを聞いたら「それ僕もコーディネーターとして参加してるよ。ファベーラの子どもたちに柔道を教えて何かのきっかけを与えているんだ」と言ってて、それだけでも驚いたのに、その場で「来る?」と声をかけてもらって、翌年から参加させてもらうことになりました。

 

━━ す、すごい、、、。実際に現地で活動してどうでしたか?

 

佐々木:私が実際に活動して、一番感じたソーシャルプロジェクトの意義は、子どもたちの将来の選択肢を広げる、未来を後押しすることでした。

 

たとえば貧困だから学校に行けない、スポーツができないというような状況の中で、お金がなくても、それが出来る環境やきっかけを作る。その中で、子どもたちが柔道で世界を目指すのもありだし、奨学金をもらって大学を目指すのもありだし、厳しい現実の中で、自分の生きる目的というか、希望の光みたいなものを見せてあげたいんだと思います。

 

━━ 安全な場所作りや食事の提供というだけでも、居場所として十分にソーシャルプロジェクトは機能してると思いました。

 

ただ、やはりそれだけでは根本的な解決にはなっていなくて、未来を変えたいのであれば、本人が自分の力でなんとか出来ること、這い上がれることを教えてあげたい。そこで、こんな世界があるんだよ、自分次第で明るい人生は作れるんだよって、その入り口というかきっかけを作るっていうのはちゃんと未来を見てるんだなって感じます。

 

その一方で、これはあくまで現状の話であって、本来国がもっとこの状況をなんとかしないといけないと思います。ファベーラの人たちの努力不足とかじゃなくて、システムの問題が大きい気がしました。

 

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佐々木:あとすごく印象に残っている出来事があるんですけど、ブラジルに来て2週間が経った頃、現地の先生に「柔道ってなんだと思う?」って聞かれたんです。

 

私が「釣り手と引き手を持って、相手を崩して、投げるのが柔道」って答えたら、先生に真顔で「違うよ、そんなの柔道じゃないよ」と言われました。

 

━━ んー、なんだろう?心の成長的なやつでしょうか?

 

佐々木:私も「え?」と思って、今までこんなに死にそうになりながら柔道をしてきて、大学でも学問として柔道を学んで、柔道発祥の地である日本からこうして来て、「じゃあ何が柔道なの?」ってそのまま逆に質問したんですよ。

 

すると先生が「あれを見てごらん」って。そこは柔道をすると言ってもまだ畳も柔道衣も準備出来ていないところだったんですけど、子どもたちが笑顔で鬼ごっごをして走り回っていて、「これが柔道なんだ」って。

 

ここファベーラは元々暴力や麻薬ばかりだったけど、こうやって安全な場所を作る、ここに来たら愛してくれる人がいる、正しいことを教えてくれる人がいる、先生、友達、そして第二の家族がいる。

 

正しい事をしたら褒めてくれて、間違った事をしたら正してくれて、ここに来るといろんな機会に繋がる。例えば奨学金をもらって学校に行けたりとか、ここに来ることで人生の可能性が広がる。それが柔道なんだ。

 

どこを持ってどう投げるかなんて、子供たちが将来大きくなってから学ぶ事であって、そんなのは二の次なんだ。ブラジルにおける柔道というのは単に技術的な事じゃなく、もっとこう根幹の部分にあるんだよ

 

━━ (すごい話だ、、、絶対ブログに書かなければ、、、!!)

 

佐々木:というのを教えてもらって、柔道にはこんな力があるんだとすごく心が震えました。

 

子どもたちにも話を聞くと6歳くらいの小さな子が「柔道が僕の人生を変えてくれた。柔道が僕の人生の扉を開いてくれた」と言ってて、「柔道をする前は何もすることがなかった。学校が終わって帰って来てもお金もないし、何もすることがなくて、路上で石を蹴ってた。でも柔道を始めてから今は第二の家族がいて、夢もある」と話していましたね。

 

本当に柔道よりも子どもたちがメインで、その子たちの可能性を開くために柔道がきっかけになってる。もちろんだからといって柔道をやっていないわけではなくて、柔道を通じて、子どもたちが人の話を聞くとか、助け合うとか、自分をコントールするとか、いろんなことを学んでいて「自分の中で柔道とかいろんな価値観が変わった」時期だったなって。

 

━━ 価値観変わりますね。今パッと言語化できないんですけど、新しい視点というか。

 

佐々木:そうですね。ブラジルでの経験は自分の人生の視点というか考え方をすごく変えてくれたと思います。

 

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━━ 他にもどこかの国に行かれてるんですか?

 

佐々木:行ったことのある国は、エジプト、アメリカ、ハンガリー、ペルー、カザフスタン、中国、インドですかね。それぞれ目的は別なので派遣してもらったり、個人で呼んでもらったり、一応毎回柔道衣は持っていってますね。

 

━━ 多い、多い!!めっちゃ行ってる(笑)。

 

佐々木:もちろん旅行で行くこともあるんですけど、柔道関連もありがたく行かせていただいてます(笑)。

 

そういえばエジプトも思い出深くて、呼んでくれたのが物凄くお金持ちの柔道クラブだったんですよ。ただ国の社会課題として男女の社会進出に差が大きくて、だから現地の女性柔道家を激励してほしいって真剣に話されてました。

 

━━ 派遣はあるとして、呼んでもらうのがすごいですよね。やっぱり安心感というか、いくら日本の柔道家とはいえ、それなりに信頼されてないと呼ばないじゃないですか。

 

佐々木:そこは本当にいろんな機会、タイミングに恵まれたと思っています。

 

大学柔道の競技で私が結果を出せなかったことは、見方によっては失敗とか上手くいかなかったって感じだと思うんですよ。でもまた別の見方によっては、自分から海外の選手に声をかけて、一緒に打ち込みをして、それをきっかけに話しが出来て、繋がれて、柔道を通じていまも関係が続いている。

 

私が向こうに行くこともあれば、向こうから来ることもあるし、築けた関係は絶対に失敗じゃないので、そういうところは私らしいのかなって思います。

 

━━ 判断基準は成功か失敗ではありませんが、そこでいうと大成功ですよね。

 

佐々木:ありがとうございます。筑波にいた時は、大学という教育機関ではありながらも、やっぱり強さを目指す場所と言いますか、強い人が偉いみたいな雰囲気もあったりして、怪我もして、上手くいかなくて、悩む時期もあったんですけど、今思うといろんなことって繋がってるんだなって思います。

 

高校の時の英語が今活きたり、怪我したことがこう繋がったりとか。いろんなことが繋がってるなって。

 

━━ あの、僕すこし気になっていることがあって、さっきから佐々木さんは普通に話しているんですけど、筑波大学に受かる学力があって、英語も話せて、柔道ではインターハイにも出てるってかなりスペック高いと思うんですよ。

 

でも話を聞いている限る、いわゆる天才ではなくて、かなりの努力を積み重ねて来た人なんだって印象があって、簡単でいいのでこれは頑張ってたと思うご自身のエピソードを教えていただけますか。

 

佐々木:やっていたことで思いつくのは、高校時代にトレーニングも兼ねて毎日片道40分を自転車で通っていました。それで7時に学校に着いて階段を走って、道場で寝技の補強をして登校です。

 

━━ (いきなりストイック!)

 

佐々木:部活が終わってからも自主練をして、また自転車で帰るんですけど、たまにお腹減りすぎて、でも田舎で周りには田んぼしかなくて、なので田んぼで少し寝て帰ったりもしてました(笑)。

 

あと学校が進学校で予習復習の量がすごくて、でも勉強も頑張りたかったので、どんなに疲れていても家で欠かさずやってました。どうしても夜眠い時は朝4時に起きて勉強したりもしてました。

 

━━ テストの順位とか聞いていいですか?

 

佐々木:なんとかですが、毎回学年3位には入っていました。勉強も分かるまで、出来るまでやらないと気がすまなかったので(笑)。

 

あとは大学で海外の選手と話すためにロシア語を覚えたかったので、授業の合間に他学群の授業を履修して、2年かけて勉強しました。

 

━━ すごい、、、すごすぎる、、、。いろいろヤバすぎて、田んぼで寝てた話スルーしちゃってたんですけど、マジで尊敬です、、、。(語彙力)

 

※インタビュー後に分かったのですが、朝練は個人的に行っていたものらしく、朝もうちょい寝ようと思えば寝れていたそうです、、、。

 

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***

 

話は少し進んで、佐々木さんは大学院を卒業するタイミングでもう一度ブラジルに渡り、ソーシャルプロジェクトに携わりたいと考えていたそうです。

 

しかし、ブラジル以外にも貧困の差や社会的格差は様々な国で起きていて、じゃあ日本にいる私には何が出来るのか自問自答すると、ブラジルに行くのも選択肢だけど、全柔連に入って、日本からソーシャルプロジェクトのような価値を発信するのも選択肢で、他にも何かしたい日本人が海外に行けるような土台を作りたいと考えるようになりました。

 

そうして大学院を卒業すると同時に、佐々木さんは全日本柔道連盟、国際課(現、普及振興課国際係)に就職が決まりました。全柔連で勤務する日々は柔道の普及や振興に携われるのがやりがいで、筋道の通っている理由さえあれば、自分の意見を話してそれを採用してもらえる。日本や国際関係の物事を決定する場面に立ち会えたのはとても貴重な経験になったとのこと。

 

ただ一方で、就職した時は「100着の柔道衣を海外に送れて喜びを共有できないのと、1着だけ送って喜びを共有できるのはどっちがいいか」自分に質問すると、答えは即答で前者だったのに、いつしかその答えが後者に変わっていった。

 

コロナ禍で自分の内面と対話する時間が増えていく中で「また現場で人とコミュニケーションをとりながら、喜怒哀楽の感情を共有したい」という思いが大きくなっていることに気づき、悩んだ末に3年7ヶ月務めた全柔連の退職を決意します。

 

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━━ これから思い絵描いている人生を教えてください。

 

佐々木:今はいろんなところに行って、いろんな人に会いたいですね。ある程度の方向性は持ちながら、その時の出会いや流れに身を任せていきたいです。

 

チャンスとか出会いとかその時生まれる感情を大切にしたいので、それくらいの入る隙間は自分で作っておこうって気持ちですね。

 

あと何をしたいというよりも、どういう自分でありたいかを大切にしたいです。

 

━━ 素敵だと思います。自分を大切にするからまわりも大切にできる。それこそ隙間というかやっぱり余裕を持つことは大事ですね。

 

これからまとめに入っていきたいのですが、佐々木さんが考える柔道の価値とはなんでしょうか?

 

佐々木:私は一番は友達ができることだと思います。外国にも友達つくることもできます。国際柔道連盟の加盟国が204カ国なんですけど、国連加盟国の193カ国より多いんですよ。柔道はすごく国際性もあるし、他の文化圏に友人ができれば、新しい世界を知るきっかけにもなると思いますので。

 

あと、柔道を通して人の痛みが理解できるようになる。優しくなれるっていうのもあると思います。暴力じゃなくて、柔道が教育的だと言われているのは、投げる時に相手が怪我しないようにするっていうのはあるし、逆に自分が投げられて痛みが分かることもある。人を傷つける可能性がある技術、体力を持つからこそ、そのコントロール方法を学ばなきゃいけない。

 

━━ いままで友達に柔道って痛いんでしょ?と言われてもそこで話が終わってて、でもだからこそ痛みがわかる、優しくできるっていうのは、分かっていたつもりで見落としていたところでした。

 

佐々木痛い思いはしたくないけど、人生って体の痛みだけじゃなくて、心の痛みもあるので、柔道で自分や相手に向き合っていけば、人の痛みに寄り添えるようになる気がします。

 

━━ 心の痛み、柔道って恥を晒す場面も多いですもんね。試合3秒で負けた時とか顔から火が出るほど恥ずかしい、、、。

 

それでいうと、みつをの「柔道は一番最初に受け身で恥を晒すことことから覚える」的な詩だってありますもんね。

 

佐々木:受け身で思い出したんですけど、ブラジルの先生がなぜ柔道がファベーラの子どもたちに役立つかというと「こういう貧しいところで暮らすという困難を子どもたちはいま味わっているのだけど、貧困は親世代もしくはそれより前の世代から連鎖していて、自分たちも同じように貧困の中で生きていかなければいけないと考えるから、困難から立ちあがろうとする経験や自分だって立ち上がれるのだと信じれるようになるきっかけ自体は少なくて、受け身を通じて投げられても立ち上がることを学べば、それを人生に適応させられる、困難の中でも、立ち上がる強さを柔道から学ぶことができるんだよ」と話していました。

 

━━ いい話です、、、受け身っていいですね、、、。

 

佐々木:色々詰まってますよね、柔道は技だけじゃないなぁって、改めて考えさせられます。

 

━━ 受け身、あんなに面白くない練習なんですけどね。

 

佐々木:投げることじゃなくて、投げられること、ちゃんと受け身を取ること、そして立ち上がること、それが一番大事なんだって言ってました。

 

━━ 柔道家の強さって、立ち振る舞いや礼儀作法、フィジカルもあるんですけど、何万回と受け身で倒れても、同じ数立ち上がってきた経験が力になっているような気がします。

 

今日はすごく勉強になった一日でした。

 

佐々木:いえいえ、私も自分の考えていたことを振り返るいいきっかけになりました。

 

━━ では、今回はこのへんで終わりたいと思います。ありがとうございました。

 

佐々木:こちらこそ、ありがとうございました。

 

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***

 

ということで、今回の記事は佐々木千鶴さんに話を聞きました。

 

余談ですが話を聞いたのは、なんと昨年の12月でした、、、。(土下座)

 

ちょくちょく「遅れてすみません」と連絡をしていたのですが、その度に「全然大丈夫なのでストレスに感じないでください」と優しく待っていただいておりまして、この場を借りて千鶴さん本当にありがとうございます。そして遅くなってすみません、、、。

 

あと書きたいことが多すぎて、けど全部書くとあまりに情報過多になってしまうので、内容かなり抜粋した本記事ですが、最後に読んでくださったみなさんへ、本文には残せなかった佐々木さんのエピソードを紹介して終わりにします。

 

①2022全日本実業個人選手権大会に挑戦

 

現役を終えてからも、もう一度試合に出たいと考えていたそうで、現在ビーガンとして食生活を送る中、動物性ではない植物性タンパク質で作った身体でどこまで出来るのか、自分を使った実験込みで、出場されています。

 

結果は初戦敗退だったものの、自分にできることに誠実に取り組んだこのチャレンジは、宝物のような時間になったとのこと。とはいえ、ちゃんと悔しかったので、また機会があれば出場を考えているそうです。

 

全柔連で働きながら社会福祉を学ぶため大学に編入

 

今までは柔道を通じて助けが必要な人にリーチしてきたけど、そもそも根本的な解決にはなっていなくて、だから一度柔道を取っ払って、社会の中で困っている人たちに寄り添うにはどうすればいいか、その人が抱えている課題を解決する手助けは何ができるのか、勉強するために大学に編入して無事卒業までされたそうです。

 

海外にばかり目を向けてきたけど、その前にいま目の前にだって困っている人がいる。場所というよりも、困っている人がいたら何かできないかな?と思うようになって、一人では難しいけど、願わくば仕組み化なんかも、いったん柔道から離れて考えてみたいと話していました。

 

素敵!!

 

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***

 

では、これで本当に今回の記事を終わります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

Text by 平良賢人 (@taiken0422

 

今回取材させてもらった佐々木千鶴さんのSNSはこちら。

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